「ほら、約束のパセリ」
そう言いながら、俺は、ひざを抱えたいずみに、パセリの大束を手渡した。
待ってましたとばかりに、いずみは俺からパセリの大束を受け取ると、それを半分にして、また俺に差し出した。
「シュウも、食べなよ」って。
「だいたいさぁ、何で再会のシチュエーションでパセリなわけ?しかも、こんな野っぱらで?」
半分あきらめ気味に聞いた俺に、いずみは何の躊躇もなく答える。
「美味しいじゃん。身体にもいいし。大体、花もらったって、食べられないっしょ?」
そんなものなのか?女心は分からない。
お前はヤギか?といいたいところを俺はぐっと堪える。だいたい、ヤギがパセリを好むのかどうかすら、分からないんだし。
「久しぶりだね。あっという間な気もするけど」
パセリを口に運びながら、いずみが言った。
「背、伸びた?いいなー。私なんていつまでたっても、150の壁を越えられないのに」
少し恨めしそうに俺を眺める。いずみは変わらない。いつだって、いろんな意味で。
俺は、右にならえで、パセリを半分やけになって口の中に押し込めた。
「おお、食べられるようになったんだ?偉いじゃん。人間、進歩はするもんだねぇ」
皮肉なのか、心底関心しているのか分からないような口ぶりに、俺は思わず吹き出した。
「お前なあ・・・」
「何?」
「いや、なんでもない」
二人でこうして、たわいのない会話をくりかえす。いずみと過ごす時間は、いつもとてもゆっくりと過ぎていく。
「今度は、いつ帰ってくるの?」
「しばらくはいるよ。そのうち、また出かけるんだろうけど」
「ずっとこうしていられればいいのになぁ。神様も、意地悪だよね」
いずみの口から、神様なんて言葉が出てきたのにはビックりした。でも・・・・・・うん、嬉しくもある。
「私と会えない時にも、パセリを見たら嫌でも思い出してよね!」
愁傷なんだか、強引なんだか分からない台詞をはいて、ご丁寧に茎まで食べ尽くしたいずみは、ごろりと芝生の上に、大の字になって寝そべった。
まっすぐに前を向いたままの、いずみの表情の先には、雲がゆっくりと薄淡い夕刻の空を流れていく。
何気ない日常が、当たり前のものなんかじゃない事を俺達は充分知っている。
だからこそ、俺はどこにいても、いずみをそばに感じている。
例え次に、どこでどんな姿で生まれ変わったとしても、めぐり合う自信だけはある。そう、絶対に。
俺は隣に寝そべりながら、残りのパセリをいずみの髪にさしてやった。いずみが笑う。その笑顔だけで、俺には充分幸せだったりするのだ。
2012年11月30日金曜日
2012年11月1日木曜日
記憶の森
深い、深い森の中 ちいさな小屋がたっていて、そのすぐそばをちいさな小川が流れている。風景だけは、いつも鮮明に目の前に現れるのだけれども、人の姿をそこに見たことは未だない。多分、そこは 「記憶の森」。いつの記憶か、誰の記憶かさえもわからない。でも 何度も何度も 繰り返し現れるから、風のそよぎも 木々の匂いも みんなリアルに感じてしまう。
私にとってその森の風景は、懐かしい場所であり 還りたい場所ではあるけれども、決して立ち寄る事ができない場所 でもある。
そばによってみようか? という思いが、無いわけでもない。でも、踏みしめる落ち葉の音に、その世界が消えてしまうのでは と、不安になる。だから、私はいつも 足音を立てないようにして、ただ遠くからその風景を眺めている。
小屋の中ではきっと、住人が白い猫をひざに抱いて、ちいさな窓から外を眺めているのだろう。私は中に住むその人が、早くその扉を開けて、この緑豊かな森の庭に出てくればいいのにと、長年思っていた。
小川の水の 心地よい冷たさや、あたり一面に咲き誇る 色とりどりの花々、木々の隙間から降注ぐ きらきらとした陽のひかりたち。それらの中で、心から安心した その人の笑顔を見たいのだ。
森の奥のちいさな小屋の中で、その人は今、何を思って過ごしているのだろう?
それとも、本当はそこに住む人などは居なくて、そこは、これから私が行くべき場所なのだろうか?長い長い時間、その森はいつも変わらずに、ただ私を待っていてくれたのだとしたら?白い猫がひとりぼっちで、私の訪れをちいさく丸くなって、今でも待っているのだとしたら?
それならば私は、これまでのただの傍観者 という立場ではなく、実際にその森に足を踏み入れなくてはならない ということになる。
自分の足音に、その森が消えてしまうのではないか、という恐怖心に打ち勝って。その森は誰かの森などではなくて、この私の森なのだ、という自信を持って。
ゆっくりと、ゆっくりと歩いて行って、閉ざされた小屋の扉を開けてみようか。
そして、今までとは逆向きの視点で、この森の風景を眺めてみるのだ。
果たせるだろうか?今の私に。
この記憶の森の住人となる、その愛しい夢を。
私にとってその森の風景は、懐かしい場所であり 還りたい場所ではあるけれども、決して立ち寄る事ができない場所 でもある。
そばによってみようか? という思いが、無いわけでもない。でも、踏みしめる落ち葉の音に、その世界が消えてしまうのでは と、不安になる。だから、私はいつも 足音を立てないようにして、ただ遠くからその風景を眺めている。
小屋の中ではきっと、住人が白い猫をひざに抱いて、ちいさな窓から外を眺めているのだろう。私は中に住むその人が、早くその扉を開けて、この緑豊かな森の庭に出てくればいいのにと、長年思っていた。
小川の水の 心地よい冷たさや、あたり一面に咲き誇る 色とりどりの花々、木々の隙間から降注ぐ きらきらとした陽のひかりたち。それらの中で、心から安心した その人の笑顔を見たいのだ。
森の奥のちいさな小屋の中で、その人は今、何を思って過ごしているのだろう?
それとも、本当はそこに住む人などは居なくて、そこは、これから私が行くべき場所なのだろうか?長い長い時間、その森はいつも変わらずに、ただ私を待っていてくれたのだとしたら?白い猫がひとりぼっちで、私の訪れをちいさく丸くなって、今でも待っているのだとしたら?
それならば私は、これまでのただの傍観者 という立場ではなく、実際にその森に足を踏み入れなくてはならない ということになる。
自分の足音に、その森が消えてしまうのではないか、という恐怖心に打ち勝って。その森は誰かの森などではなくて、この私の森なのだ、という自信を持って。
ゆっくりと、ゆっくりと歩いて行って、閉ざされた小屋の扉を開けてみようか。
そして、今までとは逆向きの視点で、この森の風景を眺めてみるのだ。
果たせるだろうか?今の私に。
この記憶の森の住人となる、その愛しい夢を。
登録:
投稿 (Atom)